No,9494

臆病な自尊心。




短文つくってます :: 2015/06/20(Sat)

りりたさんに【弾丸】という言葉をいただいて、短文をつくりました。




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穏やかな初夏の陽射しが小さな公園を包む。

「マル、マルおいで」

ベンチのそばの藪に向かって、手懐けた野良猫の名前を呼ぶ。呼んだのは、20から40代くらいの、つまり、年齢不詳の青年。その不思議な目の輝きは、青年として生まれ青年として死んでゆくような、憂鬱と純潔を示している。青いストライプシャツに使い古したグレーのジャケット、そこから日本人らしからぬすらりと長いジーンズと、履き潰された革靴。髪は不揃いに伸びて、不潔と清潔の微妙なバランスを保っている。そんな、平日の午後には不釣り合いの青年である。

「ボーロ、ボーロ」

彼はまた違う野良猫を呼んだ。と、藪の陰から二匹の猫が、するりと姿を現した。

彼は途端にパッと顔をほころばせる。彼は、もしかしたら、猫らの父親なのかもしれない。そう思わせるほど、猫の登場とともに小さな公園に溶け込んでしまう。

二匹の猫は、まず彼のしゃがんだ足に纏わりつくと、ごろごろと喉を鳴らした。マルは三毛、ボーロはトラ、年の頃はどちらも一歳くらいの、まだ若く毛並みの良い猫である。彼は、しばらくこの二匹の猫を代わる代わる撫ぜると、持っていた黒いカバンからきれいに小分けされた餌を取り出す。猫の喜びようといったらない。にゃあにゃあと急かされ、苦笑を浮かべながら、それぞれに餌を分けてやる。

 

パァン。

 

弾丸の音はすぐに、彼を、昔の彼へ引き戻した。体は彼を見捨てて、大きく宙を旋回する。その手には、知らぬうちにたった一発(たま)を込めた拳銃が握られている。横を掠めた火薬の匂いに、彼は空腹にも似た眩暈を覚える。

 

パン、パンパァン

 

続けてまた銃声。煙りを吐く銃口が、彼を睨んでいる。彼の体はその銃口を目指し、自殺めいた疾走を始める。弾を込めた拳銃を真っ直ぐ突き付けながら。

しかし、次の弾が彼を捉えることはなかった。彼は、狙撃手がトリガーを引き、銃口から弾丸が飛び出すよりも早く、狙撃手の銃口に自らの銃口をピタリと定めていたのである。

殺人機(murder)(=)(kiss)

彼の口はかつての通り名を告げると、狙撃手の瞳を捉えたまま引き鉄を引いた。

 

地面を揺るがす爆発音。

 

小さな公園は硝煙に消え、ただその立ち上る煙を遠く見守る青年が一人立ち尽くしているばかりであった。これほど絵になる光景を、筆者はまだ見たことが無い。飛び散った赤すらも、今はその彩りの一つでしかない。

 

 二匹の猫は何処かへ行ってしまった。遠くサイレンの音がする。彼は泣いていた。


(了)
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