短文つくっっってます

新世界の紙さんから「しその葉」という言葉をいただいて、短文をつくりました。



   早く大人になりたいと思っていた。

ごっこ遊びは6歳で止めた。日曜の朝は英語の勉強をした。勉強が出来れば大人になれると思っていた。好き嫌いも止めた。目の前に並んだものは何でも食べた。苦い野菜も、辛いワサビも。そんな、小学六年生の七月。

 

 

「りりかちゃんも食べられないものあるんだねえ!」

 

「ちがうよ!」

 

祖母に、からかわれるように言われて、わたしは思わず語気を強くする。わたしは、それが食べ物だって知らなかっただけだ。

今日は母が職場の飲み会とかで、夕飯は祖母と二人で済ませることになった。父は、帰りが遅い。そこで祖母は、趣味の写真愛好会の帰りに、スーパーで刺身を買ってきてくれたのだ。しかも、見るからに、いつも食べる刺身よりも“いいやつ” 。

二人揃って「いただきます」をして、わたしはいつも通り順調にご飯を食べていた。味噌汁の中のなめこも、おかずのたくあんも、酢蓮も、椎茸の大きな塊も、全部、ちゃんと。

ふと、祖母の箸がカンパチを摘むついでに下の葉っぱを摘んだ。

 

「おばあちゃん、それ葉っぱだよ」

 

わたしは、祖母が見えずに取ってしまったのだろうと思って注意した。すると、祖母が一瞬きょとん、としたあと可笑しそうに笑う。自分の間違いに照れたのかと思ってわたしも笑うと、祖母は「やーねえ!りりかちゃん」とわたしに向かって言った。まるで間違ってるのがわたしのように。

 

「ママが食べないから捨てちゃってるんでしょう?これはねえ、しその葉、食べられる葉っぱよ」

 

そして、刺身を葉っぱでくるむように摘んだまま、パクリと、食べてしまった。

 

「おいしいよ」

 

少し得意げに祖母は言った。

 

「捨てちゃうなんて、もったいない」

 

そう、わたしは知らなかった。お弁当に入っているギザギザの葉っぱみたいに、飾りだと思っていた。偉そうに注意した自分が恥ずかしくなり、誤魔化すようにわたしも、箸で葉っぱをつかんだ。

ほうれん草や、小松菜、ましてやキャベツとは全然ちがう。柔らかい、和紙のような葉。食べ物なのに、絵の具みたいな緑。わたしは祖母の視線を感じながら、勢いよくその葉を齧った。瞬間、顔が一気に歪んだ。

 

うえっ。

 

慌てて平静を装おうとするも、口に残った独特の風味が、わたしの口角を吊り下げているのがわかる。そして、さっきの祖母の言葉である。

 

「たべれるよ、ちょっとびっくりしただけだもん」

言った後で、自己嫌悪に陥る。「ら抜き言葉」と「~だもん」は、子供っぽいから使わないと決めているのである。第一、頭が悪そうだ。

 

「そう~?嫌そうな顔してたじゃない」

 

祖母の確信に満ちたニコニコが目の前である。ちがう、なれていないだけだ、練習すれば食べれるのだ。さっきより勢いをつけて一口。

涙が出た。

耳の付け根のあたりからじんわりと口の中に冷や汗をかいて、わたしはまばたきを繰り返す。祖母の止める声も聞かず残りの全部を箸でひとまとまりにして口に入れた。

お腹からいやな塊が込み上げる。自分の顔があり得ないほど顰められるのも構わずに、咀嚼し、押し戻す咽喉を叱りつけて呑み込んだ。

気付けばわたしは泣きじゃくっていた。子供のようにしゃくり上げて、ワァワァと声を立てて泣いていた。それが悔しくて、悔しいほどに嗚咽になった。オロオロと席を立った祖母が、わたしの背をさすりながら苦いような声で言う。

 

「無理に食べなくてもよかったじゃないのー今食べられなくてもね、大人になったら食べられるようになるんだから、焦らなくていいのよ~」

 

わたしは途端に腹も立ってくる。だからだ、だからこそなんだ。ますます涙が溢れて止まらない。祖母への反論も流されていってしまう。

わたしは早く大人になるんだ。味噌汁の中のなめこも、おかずのたくあんも、酢蓮も、椎茸の大きな塊も本当は食べたくなんてない。でもわたしは早く大人になるんだ。

 

わたしはしばらく、祖母の腕の中で泣いていた。

 

 

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